井上井月(せいげつ)の歌曲「雁がね」を聴く
雁がねのしらべ美し伊那谷にたゆたふ思ひ沁みてすべなし
万葉の人のこころね知りたきに雁がねのうた読み広げゆく
いにしへに筑波の山を越えてゆく雁がね恋ほし青き空見ゆ
実りたる稲田を過ぎておほどかに聳ゆる筑波の山うるはしき
朝な朝な庭より眺むる筑波嶺に二人子連れて登り来たりぬ
ひとけなき山の道ゆく今はただマスクを外して息をしやうよ
山かげに彼岸の花咲く坂道に子の声はずむ風の涼しさ
すだ椎は苔むしてをり神さぶるいのち漲り後の世も立つ
山たづね薬王院の屋根は反る清(すが)しく見ゆる空に雲なし
石段に秋海棠は咲きにけり鐘を鳴らしに子らよ行かなむ
二人子は声を出ださず鐘を突くをさなき願ひを念じたるらし
キリストの国の鐘の音思ひやり子の鐘の音を耳澄まし聞く
ケーブルカーを渡す柱が突き立てられ痛しかるらむあはれこの山
白萩の花の散りしくわが庭の空鳴き渡る雁は来まさず
大和なる二上山(ふたかみやま)と焦がれ見る筑波の山の今朝は見えざり
佳き人の善なる心のともしびを頼りに昏(くら)き道を歩まむ