こころねのうた

ほんねで歌いたい

うつしみの人

仕事より帰り来たりて洗ひ場に君が使ひし皿はしづもる

寝室に君は休みぬ今日もまたイヤホンつけて動画見てをり

昼過ぎてやうやく飯を食ひ終へてアル・パチーノを見たくなりたし

『セント・オブ・ウーマン』見たし二人子は『ライオンキング』を見たしと言ひけり

二人子と『ライオン・キング』を見てゐしが「おかあさんあそぼ」と言ひ始めくる

休みたし『セント・オブ・ウーマン』見たしただそれだけの日曜昼すぎのこと

長男の音読がすみておらぬこと気づきてぢわり怒りこみ上ぐ

我が昼の皿とあはせて夫の皿を洗ふは厭わし音しげくなる

割れるほど音たてて皿を洗ひたる我が拙さはとどまらざりけり

いぶかしく声をかけくる夫にいま怒りの砲弾思いきり打て

皿一枚一枚だけだとあなどれるその一枚も洗はぬか君

いきりたち夫を責めゐる我が声は二人子泣かし怖ぢ恐れさす

声色と綴る言葉はうつしみの人なる我の魂とあらはる

音読の『三年とうげ』を読む声は泣き震えども子は続けゆく

こんな家はまうたくさんだと出てきゆぬ望むところとほくそ笑みたり

「お父さんどこに行ったの」「いつ帰るの」子らの声澄む鐘のごとくに

「でんわしていつかえるのかきいてみて」なにごころなく子は言ひてくる

父母も争ふことがあるといふただそれのみを二人子に述ぶ