初春に
千両の朱きを飾らむあたらしき丑の年神迎え入れたし
自粛するこの正月は残りたる栗きんとんをわれ一人食(お)す
思川
深々と情(じょう)に棹差し流されて沈みゆく身のたづき知らずも
わたくしの能(あた)ふかぎりに二人子をはぐくみ糧を得る術ぞ欲し
三月二十五日
たをやかなチェロを聴きたるこの夜の東京タワーはうつくしく照る
機関車が煙を吐きつつひた走りラフマニノフを乗せて轟く
耳朶(じだ)深く鐘の音を聞くうらがなしラフマニノフを乗せてゆく汽車
春の日の物悲しきは轟きと黒き煙にかき消されたり
桜の花はや咲き満ちて寒々し我が心(うら)ゆさぶることもなかりし
人みながマスクをはづして相見あひいとをしむ真(まこと)の春し来まさね
ある歌によす
君がうた響きくるらし里山は花咲き初むよ春のしじまに